ロスジェネの呪いと苦悩と悶絶

憎しみ、呪いからは何も生まれない。
綺麗事ではなく本当にそう思う。
呪いを出発点にしているかぎり、空高くは羽ばたけない。
奴隷の鉄球よろしく、呪いに足を引っ張られてしまうから。

スポンサーリンク



知事選挙の期日前投票へ行った帰り、実家近くのコメダで小中時代の同級生Tと遭遇。
今43才、地元の大学を卒業して就職、確かスーパーマーケットの本部だったはず。
帰省時に店頭に立っている姿を見た記憶があるが、そこでの激務で心身を壊し、1年で退職。
以来転職せずに20年近く実家に引きこもっていた。ニートのはしりである。

その20年間、彼が何をしていたのかほとんど知らない。実家に帰って聞く近所の話や、同級生からの与太話でチラッと出るくらい。
むしろ自分の18歳からの+60キロの激太り情報のほうが興味津々だろうからね。

そんなTと久々に再会したのは一昨年の正月に地元のコンビニで働く姿を見たとき。
最近どうなのか聞いたら、バイトをしながら社会復帰に向けて前向きにチャレンジ中。その姿を見て自分は応援していた。
地元のコンビニなのでお客はほとんど地元の人間。
面識が薄くても気軽に話せるくらいの社会性を身に着けた、気さくにコミュニケーションをとるオッサンになっていた。
確かTとは小学校の時に2年間同じクラスだったと思うが、中学時代に通っていた学習塾が同じで、講義の始まる時間の前に塾の駐輪場前でみんなと下世話な話をしていたグループの一人だった。

20190127 img 05

Tは昨年の秋にバイト先のコンビニで見かけた記憶があるが、状況は変わっていた。
「11月から正社員として働いている」
カウンターの座席に並んで座り、真冬なのにアイスココアを飲みつつ、週刊誌を読みながら目線を上げることなくTは言った。
職場や仕事について質問したが「勘弁してくれよ」と彼は答えなかった。声のトーンが暗いのが少し気になったが、そのままにしておいた。
自分も派遣の労務管理からタクシーのコールセンターに移って9年だけどねって話すと、彼は目線を上げてキョトン顔。
「派遣会社ってどこだった?」と聞いてくる。
あれ? なんか雲行き怪しくない?
「○○にいて、そこから同業の☓☓に移った」って話すとクリティカルヒット。
かつて勤めていた○○にまさに就職したとのこと。派遣会社の労務管理なう。
部署と今の経営陣、知っている人の名前とかがあるあるネタ状態になってきた。
一応、こんななりでも当時は三重営業所の所長だったんだよって話でさらに食いついてきた。

すると突然、Tは「給料いくら貰っている?」と尋ねてきた。
おいおい突然何を聞いてくるの?って感じ。
リアルな額をいうべきか、気をつかった額を言うべきか、少し悩んでいると彼は
「俺の給料、新卒のときとほぼ同じなんだよ」
と自嘲気味にいった。答えを求められていないことに安堵しながら、どういうこと、と言葉をうながした。
嫌な予感がしていた。
Tは「おかしいよね?今年44才になる正社員に20万だなんて」と言った。
嫌な予感的中。ど真ん中ストレート。
無資格で、ほぼ職歴もないから仕方ないよ・・・何もない43才のオッサンが正規雇用してもらっているだけラッキーと思わなきゃ!とは言えなかった。
自分がいた頃はもっと貰ってたなんて言えないと思いつつ、その代わりに「給料いくらなら満足なんだよ?」と尋ねていた。
「手取り35」という回答に、思わず「無い無い!」とさっきのあるあるネタ感覚でつい口に出してしまう。
ちょっと夢見がちな金額。人手不足だからってそんな高額で求人しないし、世間一般でそんな職場なんて無いと思う。
役職ついてもそんな金額貰えなかったし・・・
無理無理無理、少なくともどこの会社でも未経験者にその額は払えない、ふざけんなと。
するとTはとても重い言葉を口にした。

「20万が俺の価値なのか」と。

違う。とも言い切れなった。
以前、Tがアルバイト時代に店で遭ったときに自分はこんなことを言った覚えがある。
自分も転職繰り返して波乱万丈だけど、それなりに折り合いつけて無事に生きてるから大丈夫だよ。って
それは王道な生き方以外にも生きる道はあるという意味だったのだが、伝わっていなかったみたいだ。
そういえば、あのとき、Tはそれでも高待遇の会社の方がいいと呟いていたっけ・・・
ニートが何を夢見てんだって思ったものだ。
自分はTに無理に20年を取り戻そうとせずに進んでほしかった。
20年のロスは想像以上に残酷なほど大きいと思ったからだ。
その時間を社会人として生きてきた人間と社会に触れていなかった人間との差は決して小さくはない。
ましてや僕らはオーバー40。今更新卒というわけにはいかない。

「何もしなかった政治が悪い。国の無責任」と前置きしてから、Tは続ける。
就職活動をしているとき、氷河期で入りたい会社、業界に入れず、入れる会社に入ったのがそもそも失敗だった。個人ではどうしようもなかった、時代が、運が悪かった。その結果20万しか価値のない人間になってしまった、と。
話を聞きながら、「これがロスジェネ?」と複雑な気持ちになっていた。
大学時代ふざけていた自分も、当時は教職目指してあれこれ苦しんでいた。・・・というかみんな苦しんでいたはずだ。
教員から飲食、派遣、タクシーという希望とは程遠い業界で今もやってきている。
その一方、シビアな時代でも、自分の希望した道を歩いている人もいる。
シビアな時代というのは、完全に道が閉ざされているのではなく、ハードルが高くなっているだけだ。
まあ、ツイていない、時代が悪かったという事実としてはあるのだけれど・・・

なんだか、Tの話を聞いているうちに、自分の20年間が否定されているような気がしてきた。
自分もたまらずに、「あのさ、いつまでも時代のせいにしてちゃダメだと思うよ」とTに言った。
「あのころはしんどかった」 それは事実で、国は何もしなかったかもしれないけれど、20年も経っているのもこれまた事実だ。
あの頃を生き抜いた人間は、ツイてなかったことも受け入れて皆、なんとかサバイバル中だ。
いつまでも布団の端っこを噛んで時代が悪かったといっているのは現実から逃げているんだよ、と。
「そんなことはわかっている」とTは言った。
自分は少し夢見がちなTをもう少し追い込んでみようか思ったけど、逆に「何かごめん。つまらない愚痴を聞いてくれてありがとう」と言われてしまって何も言えなくなってしまった。

20190127 img 04

自分たちの世代はロスジェネといわれている。
失われた世代。Tは不幸なことに、そのうえ20年という長い年月まで失ってしまった。
若ければ…という仮定は虚しいだけだ。
現実の自分達は40代。残酷だが、その年月を取り戻すのは不可能。
でも失い続けることはない。彼に世間とはちょっとズレたところでもいいから居場所を見つけてほしいと願っていた。

このままの考えで行くと彼が勤めている派遣会社では、従業員にナメられて突き上げに苦しみ、上からの数字の圧力にも悩まされプレス死してしまうだろう。
つまり、長く続くかは甚だ疑問なのだ。
コンプライアンスも整ってきている今だと逆にうまくいくかもしれないが、大事なのは本人の忍耐力だけ。席を立つTに「いろいろあるかもしれないけど、頑張ってよ」と声をかけることしか出来なかった。

中学時代、塾の自転車置き場。くだらない話やゲームの話の連続で馬鹿笑いしていた。
人生も大変なことが多いけど、笑って暮らせるのが最高だ。
Tに負けず劣らず、43才独身、クソデブ、転職歴4回のゴミクズ人間でも最近思う。
人生も半ばを過ぎ、折り返し地点をターンしている。今までの時間より、これからの時間のほうが確実に少ない。
だったら残り時間を満喫したいものだ。
そういえば中学時代に自転車置場で、みんなで下ネタを話していたり、中学生特有の自分のエロ事情を隠しつつ相手のエロ事情を聞き出す行為が楽しかった。
だいたいみんな同じ感じだろうけど、失敗して自滅するヤツが毎回出ていた。
いつからだろう?失敗を楽しめなくなってしまったのは。
失敗を、再起不能な失敗と思い込んでしまうようになったのは。

Tはロスジェネに呪われている。いや、呪っている。
それでも自分はTについてはポジティブに考えている。
呪いから解放されると信じている。
なぜなら本人は「20万の価値しかない」と嘆いていたが、とりあえずスタート地点に立つことはできているし、ロスジェネ世代でも失われていないものもまだまだたくさんあるからだ。

失われたものをいつまでも嘆いているほど人生は長くないし、人生は後悔のためにあるんじゃないってことを早く彼に気付いてほしい。
失われた過去に縛られて未来まで失うことはない、今度遭ったらそういう言葉を彼にぶつけていこう。
アイスココアみたいに甘くはない。少し厳しめな言葉の羅列になるだろう。
ウザがられても嫌われても構わんよ。
喫茶店でそんな誓いを立てた瞬間だった。

スポンサーリンク
スポンサーリンク




スポンサーリンク




シェアする

フォローする

スポンサーリンク
スポンサーリンク